2015年4月9日木曜日

似非プレイ記 ミストウォッチ

※ ドヴァキンかも知れないしそうではないかも知れない、冒険者として生きていける程度には特別な存在というロールプレイです。
 作中のクエストとは内容が違う場合がございます。




 ミストウォッチ砦に女をかどわかし身代金を要求している山賊団がいるという話を聞いたのはヘルゲン近くの山中だった。
 ぼろを着たその女性はミストウォッチ砦から命からがらで逃げてきたと、息も絶え絶えといった様子で話した。
 そして他にもさらわれ監禁されている人がいるから、できれば山賊を倒して監禁されている人を助けて欲しいと私に懇願してきた。
 いや、私にというよりは誰でもいいといったところだろうか。
 近くの要塞の衛兵に届け出る事も考えたが、お役所仕事では対応はいつになるか分からない。
 私がミストウォッチ砦に向かう事を決めるのに時間はかからなかった。

 女性の話の通りミストウォッチ砦には山賊が巣食っていた。
 砦への侵入は難しくはなかった。砦の背面に隣接した崖面から誰にも気付かれずに砦の塔の頂上へと飛び移る事ができた。
 砦の党は高いものとその半分程度の高さのものが二つ繋がって建っている。いま飛び移ったのは半分の高さの方。
 おそらく山賊の頭は高い塔の方にいるだろう。
 このまま高いほうの塔へと侵入して山賊の頭を倒すかあわよくば人質に取れれば楽にここを制圧できるはず。


「チッ」
 思わず舌打ちが出る。
 塔の扉は特殊な形状の鍵らしく手持ちのロックピックでは開きそうにない。
「そう上手くはいかないか」
 冗談交じりでひとりごちて私は鍵を探しに塔を下りることにした。

 鍵を探しながら賊を倒していき、このままじゃ全滅させるのと大差ないわねと思い始めていた時あきらかに賊とは違う場違いな男と出会った。
 クリスターと名乗ったその男は賊にさらわれた女房を探しに来たのだという。
「頼む!あいつを探してきてくれないか?そう多くは出せないが報酬も出す」
 確かに彼の言う通り、ただの農民が賊から女房を取り返すのは無理だろう。
もともと囚われた人達を解放するためにここに来たのだから断る手は無い・・・が、彼の女房がここに居るとは限らないし居たとしても無事でいるとは限らない。
 現に、ここに来るまでに牢獄の中で息絶えているアルトマーの女性を見ている。もちろん、そんな事は彼には伝えないけれど。

「ここに居るはずなんだ。この砦の連中が噂になり始めたのは女房が居なくなってすぐだった」
 そう言うと彼は懐から一つの鍵を取り出した。
「この鍵はここで拾ったんだ。何かの役に立つかも知れない、持っていってくれ」
 オマエガモッテタンカイ
 思わず口から出そうになった言葉を既の所で押しとどめると私は彼から鍵を受け取った。
「何も保障は出来ないけれど、貴方はここで隠れて待ってて」
 外も中もあらかた賊は倒してしまったからここに残しても大丈夫だろう。
「た、頼んだ!」


「何者なの?私の塔でなにをしているの?」
 塔の扉の奥の部屋で武装して私を待ち構えていた山賊の頭は私にそう告げた。
下で手下の気配が次々と消えていけば流石に気付くか・・・とはいえ、いきなり襲い掛かってきたりはしないあたり身の程をわきまえているのか多少は話が通じるようだ。
 頭が女だったのは意外だったけど。
「フオラという女性がここに囚われているはずよ。彼女に用があるの。」
 助けに来た、とは言わない。こちらに交渉の余地があると解釈する様な言い方をする。
「フオラ?なぜその名前を知ってるの?」
「彼女の夫に頼まれて彼女を探しにきたのよ」

「その愚か者は私の夫。私はフオラ・・・だったわ」
「えっ!」
 気付かれない様にじりじりと彼女がよく見える位置へと移動していた私は思わず足を止めた。
「あなたがフオラ?クリスターの妻の?どうして」
 どうして山賊の頭なんてやってるの?と繋げようとした私の言葉をさえぎって彼女は自分のことを話しだした。
 農民としての人生を不満に思っていた事、農場を飛び出してここを見付けた事、自分の実力を示して賊をまとめあげた事、そして・・・戻る気はない事。
「こんな所まで追ってくるとは思わなかった。始末・・・あ、いや、追い返して」
 どうやら既にこういう世界にどっぷりと浸かった彼女を無理に戻しても明るい未来は望めそうもない様だ。
「分かったわ。フオラはここにはいなかった、そう伝えるわ」
「待って。これを持っていって」
 彼女が懐から取り出したのは指輪だった。
「結婚指輪よ。彼に見せて、何でもいいから彼が去ってくれそうな事を言ってやって。
それかあんたが売って金に替えてもいい」
 指輪を受け取ったときの私の顔が気にかかったのか一言付け加えた。
「私がどうしてずっとこれを持っていたかはストゥーンのみぞ知る、ね」
 ストゥーン・・・人間に捕虜をとる方法と利点を説いた神か。
 悪趣味な冗談が癇に障る。
 私は何も言わずに彼女から離れた。


「フオラはいなかったわ」
 ただ一言そう告げて私はクリスターに指輪を渡した。
「フオラの結婚指輪か! あいつはここにいたんだ!」
 彼は指輪を確かめるとそう声を上げた。
「なら希望はある・・・あいつはきっと一人で逃げ出したんだ」
 クリスターそう勝手に納得すると居ても立ってもいられないという風に外へ駆け出した。
「ありがとう!あんたの事は忘れないよ!」



 正しかったのだろうか・・・?
 彼女を殺さなかったという事は彼女は山賊として誘拐や略奪を続けるのだろう。
 あるいは、 衛兵か報復で雇われたごろつきに殺されるか・・・。
 そしてクリスターはこれからも彼の妻だった女を捜し続けるのだろう。

 今の私に答えは無い、いや・・・答えを出したくないのかもしれない。
 冒険者として生きている私と、山賊として生きている彼女。
 一つ間違えれば立場は逆だったかもしれない・・・いや、"間違わなければ"逆あるいは同じ立場だったかもしれない。
 ひとつだけ言える確かな事は、私も彼女もろくな死に方はしないだろうという事だけ。

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