2014年5月16日金曜日

エセリウム戦争 - 似非プレイ記 -

※ 忘却の彼方を未プレイの方はご注意ください。
※ 改変や省略している部分が多々あります。




 どこかに出掛けるには遅くかといって寝るにはまだ早い時間、武具の手入れなども済ませてしまい余った時間を読書にあてていた私は一冊の本に興味を惹かれた。
「エセリウム戦争」という名のその本はドゥーマーの遺跡でごく稀に見つかるエセリウムという青い結晶について書かれたものだった。
 単にドゥーマーの遺跡や希少な結晶というだけでは興味を惹かれなかったかもしれない。
ただ、以前ダークウォータークロッシングからリフテンに向かう途中で立ち寄ったドゥーマーの遺跡で見かけた青く光る欠片がそれだったんじゃないかと思い至った。

 思い至ってしまったのでは仕方ない。私は本を懐にねじ込み外套を羽織ると玄関の扉に手を掛けた。
「お出掛けになられるのですか?」
 ちゃっかりと帯剣して付いて行きますよとばかりに声を掛けてきたビルギッタに「要らん要らん」と手を振ると私は月明かりに照らされた夜を歩き出した。


碧水晶やスタルリムとも違う「冷光を放つ青い結晶」……どうやらエセリウムで間違いないようね。
思っていたよりも小さかったのは残念だけど、この形状からするとどうやら他のパーツと組み合わせる様だ。
 となると他のドゥーマーの遺跡を探ればこいつに合うパーツ、あわよくばもっと大きな物が見付かるかもしれないって訳ね。
 「エセリウム戦争」によれば南リーチにあるアルクンザムズという研究施設が他の都市を取りまとめていたみたいだし探るならここが狙いどころね。
 珍品扱いって事だから大した値はしないだろうけど、遺跡の中でドゥーマーの金属の塊でも拾えば路銀の足しにはなるだろう。

 
ドゥーマーの遺跡に潜るとなれば「ふらっと立ち寄ってみました」なんて格好で来ることは出来ない。
一旦自宅へと戻り装備を整えリフテンから馬車でマルカルスへ、そこから南下した所にアルクンザムズはあった。
 途中で狼や熊、フォースウォーンに襲われたりもしたけれど、家を出る時のビルギッタの恨みがましい眼に比べれば大した事は無かった……最近どこにも連れて行ってあげてないからなあ。

アルクンザムズの中は他のドゥーマーの廃墟に比べても脆くなっている様で今にも崩れ落ちてきそうな雰囲気をしていた。
「こんな場所で一人押しつぶされて死ぬなんてぞっとしないわね」
 天井からこぼれ落ちる砂を見ながら独りごちてみても目的の物が手に入る訳も無く、私は廃墟の通路を奥へと歩き出した。

「引き返して……」
 いくばくも進まないうちにどこからか女性の声が聞こえた。賊が潜んでいるのかと身構えたがそれらしき気配はない。
 あきらかにこちらへ向けられた警告の言葉だったが敵意は感じられず、むしろなんとも言えない悲しみに満ちた声だった。
「お願い、引き返して…手遅れになる前に…」
 手遅れね……確かにここが崩れ落ちる前に引き返した方が良さそうだけど、ならなぜ貴方はここにいるの?第一、姿を見せないのが怪しわ。


その答えは通路を進んだ先の広間にあった。
 床の裂け目に落ちていった天井を眺め「やっぱり引き返したほうがいいかな」と考えていたら先程からの声が後ろから話しかけてきた。
「やめるよう説得するのは無理そうかな?分かるよ。あたしも昔はあんたみたいだった」
 突然現れた気配に驚き振り向いた私は彼女の姿に愕然とした。青白く光り透き通った姿はどう見ても生きている者のそれではなかったからだ。
「あたしはカトリア。かつては…冒険者だった。」
 いぶかしげに見つめる私の表情から察したのか"彼女"は自分の名を名乗った。 いや、待って。その名前には覚えがあるわ。 それもごく最近。
 私は懐からエセリウム戦争を取り出すとその最初のページを開いた。
"我が友であり同僚でもあるカトリアにささぐ"
 
「ああ。その本を読んだんだね。あたしの研究。あたしの一生を掛けた仕事を見習いが盗んで自分のものにしたんだ!
 眠りにつく事はできない!鋳造器具を見つけ、それがあたしの発見だと証明できるまで!彼じゃなくあたしの!」
 無念の思いが彼女をここに縛り付けている。とても強い彼女の無念が晴れるまではこのままずっとここに存在し続けるのだろう。
 そして、この遺跡が完全に崩れ落ちてしまえば彼女の無念が晴らされる機会は永遠に失われる。
 ……引き返す訳にはいかない、か。

「助けがいるなら付いていくよ。」
 私が、先に進むと言った時の彼女の声は心なしか喜んでいるように聞こえた。


「あたしの身体を調べてみて。ノートがあるはずよ。」
 "彼女"の遺体は地下を流れる川の中央に立つ柱の様な島の上にあった。
 ここから数階層上の"色彩の鍵"というものがある場所にいた時に地震が起こり、地面が抜けここまで落下したというのが本人の言だ。
  明日は我が身。いや、冒険者なら明日といわず今日がその日かも知れない毎日よね。そうならない事を祈るわ。

 カトリアのノートの前半は恨みつらみを書き綴ったものだったが、遺跡の攻略に役立つメモもあった。こういうものはたとえ走り書きでも助かる。
 書いた本人が横にいるんだから直接聞けばいいじゃないかと思うなかれ、人の記憶は思っている以上にあてにならない部分が多い。冒険者にしろ研究者にしろ、この手のノートのおかげで紙一重で命を繋ぐのは珍しい事じゃない。
 もちろん軽々しく他人に見せたりするものでもない。自分は死んでしまったとはいえそれを見せてくれるというのは信頼されているのか、それともそういう事を厭わない程に無念を晴らすという思いが強いのか。
 どちらにせよカトリアに私を嵌めようって気は無いと見ていいわね。いや、疑ってた訳じゃないけどそういう可能性は常に考えておかないと早死にするからね。


  遺跡の中でドゥーマーのオートマトンを倒し、崩壊しかけた洞窟の中でファルマーやシャウラスを倒して進み、崩れた天井の隙間から覗く空に飛んでいる鷹の姿が見えた時、私はなんとも言えない安堵感に包まれた。
 "生きた心地はしなかった"なんて彼女の前じゃ皮肉にしかならないけれど、まさにそんな心境だ。
 彼女もよく戦ってくれるから助かる。二刀流とは意外だったけれど、彼女の激しい一面を表しているようで頼もしくもある。
「落ちたのはここだよ。ずいぶん昔に感じるな。」
 地面の割れ目から下を覗けば下に川が見えた。彼女の遺体があった川だろう。
  カトリアの悲しみが伝わってくるようで見ててあまり良い気持ちのするものじゃない。
 幸い割れ目を迂回すれば向こう側に渡れるみたいだ。早々に進んでしまった方がいいだろう。


「これが何か分かる?鍵だよ。"色彩の鍵"。単純で、しかも極めて危険だ。」
  なるほど、宝物庫の周りに転がる冒険者の死体と突き刺さった矢を見れば危険極まりない物というのは間違いない。
「ドゥーマーが"動力共鳴装置"と呼んでるものが見えるだろう?あれを正しい順番で打つんだ。間違えたら…分かるね?」
 周りに転がる死体の仲間入りって訳ね。でも、貴女の残したノートとここで亡くなった冒険者の残したメモをあわせれば正しい順番は粗方分かるわ。
(幽体の貴女が打ってくれた方がいのだけどとは思っても口には出せないわよね)

 正しい順番で共鳴装置を打つと不思議な音が響き渡り宝物庫の扉が開いた。余程嬉しかったのかカトリアは脇目も振らずに宝物庫の中へと駆けていく。
「気をつけて!」
 そう声を掛けようとしたけれど、思い直してやめた。彼女は、その……大丈夫だものね。
 でも、気をつけないといけないのは本当。開けた扉のすぐ先に踏み板の罠があるなんてドゥーマーの遺跡では珍しくないもの。


エセリウムは宝物庫の中の一番奥にあった。
「ここの縁を見て。正確に切断されている。同じ大きさの破片がもう一つあれば…ぴったり嵌るはずだよ。」
 実はもう持ってるのよ。私は懐からエセリウムの破片を取り出すとひらひらと振って見せた。
「まったくあなたは大した冒険者ね。でもその破片…ちょっと大きさが違うみたい。」
 言われてみれば確かに私の持っていた破片は一回り小さい。もちろん縁の形も合わない。いや、合わないというよりもパーツが足りないといった感じだ。
「どうやら他のドゥーマーの都市の破片も集めないといけないみたいだね。」
「この長い間で初めて、あたしが…あたし達が…本当に成し遂げられる気がする。あんたの…」
 おっと、礼を言うにはまだ早いわよ。遺跡の数はまだ半分以上残ってるんだから。
「そうね…そうだね!じゃあ、あたしは先に次の遺跡に向かうから現地で落ち合おう!」
 言うが早いか彼女の姿は掻き消えていた。もう、居ても立ってもいられなかったのだろう。
 さて、私はゆっくりと宝物庫を漁ってから行きましょうかね。




冒険者がベッドの上で死ねるとは思っちゃいないけれど、このくらいは許されるはずよね。


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