※ 改変や冗長や省略している部分が多々ありすぎます。
最後の遺跡の場所はリフト地方、ゲイル湖の南あたりにあるとカトリアのノートには記されていた。
確か、ジェラール山脈の中腹辺りにアバンチンゼルというドゥーマーの遺跡があったはずだ。でも、ノートの印とはかなり離れているなあ……。
いや待てよ…テンバさんに頼まれて熊狩りをしていた時にドゥーマーの遺跡を見た覚えがある。そう大きな遺跡ではなかったけれど、妙な機械が壊れずに残っていた。
きっとあそこに違いない。というか他に心当たりが無い。もし間違っていたら…その時は、辺りをしらみ潰しに探すしかないか。
昼を回る前には目的地に着くことができた。
どうやら正解だったらしく、カトリアがここに巣食っていた盗賊とやりあっている最中だった。
日が高いうちからやたら元気だね。盗賊だって基本的には夜行性だって相場は決まっているのに。
とか言ってる間に盗賊は片付いた。もちろん私も手伝ったわよ。
「ここの機器を見て…中心の大きさがちょうどいい大きさだね。破片をはめ込んでみて…どうなるか確かめてみよう。」
声が上擦ってるわよカトリアさん。気持ちは分かるわよ…私も同じ気持ち。
ただ…その…なんていうか、怪談話でも自分より怖がってる人が隣にいると怖さが半減しちゃう事ってあるじゃない?今そんな感じ。
それに、これは…貴女の研究だものね。
エセリウムの破片を全てはめ込むとドゥーマーの機械が動き、大きく地面が揺れた。
まさか崩れ落ちたりしないわよねと身構えたが、地響きはすぐに収まり見ればエセリウムの破片はドゥーマーのコグのような物の中で一つになっていた。
「試しに…取ってみる?」
カトリアは本当は自分で取りたくて仕方ないといった顔をしているが、どこか遠慮している風でもある。余計な気を使わなくてもいいのに。
ここでお互い遠慮しあっていても時間の無駄だから取るけどね。一応、罠には注意しつつ。
エセリウムを取ると、さっきよりも大きな地響きが起こった。
「危ない!離れて!」
まともに立つ事もできない程の揺れだったが私はエセリウムをしっかりと抱きかかえ、あわあわとその場から離れた。 見た目より命が大事!
先程まで私達が立っていた場所は、高くせり上がりドゥーマーの昇降機が姿を見せていた。
これがエセリウムの鋳造器具まで運んでくれるのだろうか?
「本物だ…まさしく本物だよ!さあ、確かめよう!」
カトリアの興奮はここに極まれりといった感じだった。鋳造器具をみたら卒倒しちゃうんじゃないかな?
昇降機は他の遺跡のものより長く深く降りていった。
せまい昇降機の中でカトリアは、そわそわと歩き回っている。話しかける雰囲気ではなさそうだ。
これ途中で止まったら生き埋めになっちゃうわね。ドゥーマーの機械に限ってはそういう事が起こる可能性は低いだろうけど、なにせドゥーマーが消えて以来メンテナンスも全くしてないだろうしね……。
未だにちゃんと動くなんて改めて考えるとドゥーマーってすごいわね。
そんな事を考えていたらガコンと音を立てて昇降機が止まった。
私は、両足にかかる重量に若干の違和感を感じながら目の前の扉を開け外へ踏み出した。
扉の外は、さらに下へ続く階段があった。
階段の横に等間隔で並んで立っている石の柱は、私たちを導くように次々にかがり火が灯り奥にある遺跡を照らし出す。
「古い感じだね…そうじゃない?ここに…四千年もの間、来た者がいないと思うと…」
ドゥーマーが消えたのが確か第一紀の700年だから、少なくとも3300年は経ってる計算になる。
カトリアの見立てでは、もう少し古いものらしい。
遺跡の中は多少の損壊はあったが、壁の配管から蒸気が噴出しているところを見ると充分に機能しているようだ。
「ここの空気…違う感じがするよ。まるで…」
ドゥーマーが隣にいるみたいって?思わず頬が緩む。
たまに詩人みたいな事言うわよね、あなた。私は噴出す蒸気で蒸し暑いくらいにしか感じてなかったわよ。
奥に見えた扉を開くと、さらに濃密な蒸気…いや、熱気があふれ出してきた。
どうりで蒸し暑いはずだ、この部屋はマグマ溜まりだ。この手の研究は門外漢なので詳しくは知らないけれど、並大抵の魔法では作り出せないほどの高温によって岩や土が溶けたもので、地中深くに溜まっているけれど火山の噴火で地上に噴出す事もあると聞いたおぼえがある。
つまり、それほどの高温じゃないとエセリウムは加工できないって事か。
「あれは…鋳造器具?」
カトリアの指差した先、蒸気の奥にドゥーマーの機械が見えた。とはいえ、このままじゃ近付く前に喉が焼けてしまう。
「この蒸気を払う換気装置みたいなものがどこかにあるはずだよ。」
確かに、ドゥーマーだってこんな熱気の中じゃまともに息もできなかったはずだ。
部屋の中を探すまでもなく目立つ場所にそれらしきバルブがあった。奥にはインゴットの積まれたテーブルも見える。
バルブを回すと蒸気の噴出が止まる、さすがにマグマの熱気までは抑えきれないが先程よりはずいぶんマシになった。
が、事はそれだけでは済まなかった。部屋の至る所に潜んでいたらしいオートマトンが動き出した。
「スパイダー?相手にはできるね。いくよ!」
私は、それには答えずに剣を抜き召喚呪文を唱え始めた。
スフィアから剣を引き抜きカトリアの方を見ると、彼女が最後のスフィアに止めを刺したところだった。
最初から壊れかけというか歪んでた奴もいたし、ちょっと拍子抜けな気がしないでもないな…。召喚した炎の精霊も物足りないとばかりにくるくる回っている。
そんな駄々こねたってもう終わ…り……え?マグマの中から何かが出てくる…。
「そんな…」
カトリアも思わず息を呑む。
あろう事かマグマの中から現れたそれは大きな人型のオートマトン…人型とは何度か戦った事はあるが、今まで出会ったどれよりも大きい。
そもそも、高温のマグマの中にいて平気で動いているなんて常軌を逸している。
相手をするにしてもまずは体力を回復したい。足止めに炎の精霊を向かわせ、こちらは治癒の呪文を唱える。
相手はマグマの中から出てきたような奴だ。 炎の精霊では分が悪いだろうけど、こちらが回復するまで気を惹きつけてくれればいい。
「危ない離れて!」
え……?
オートマトンの正面から一直線に噴出した紅蓮に包まれた炎の精霊が一瞬にして消え去った。私もあと少し横にずれていたら消し炭になっていた…。
「何をしているの!?逃げるわよ!」
……いや、逃げない!こいつは倒す!
「無理よ!今のを見たでしょう?」
ええ、まさか炎の精霊が一撃で倒されるとはね。でも私の考えが正しければ、今の炎は正面にしか噴出できない。
まずは、的を絞らせないようにするわよ。
もう一度、炎の精霊を召喚して今度は距離をとって攪乱するように指示を出す。
「あんたは勇気と無謀は違うって事を覚えないといけないようね。」
そう言いながらもカトリアは、私の指示に従い部屋の反対側へ回りこむように駆け出していた。
そのくらい分かってるわよ。でも、無謀でもここであいつを倒さないと貴女はずっとそのままでしょうが。
幸いにもオートマトンの動きは遅い。動き回る私達を正面に捉えることができずに唸り声の様な音を出しながら右往左往している。
当てずっぽうに火球を吐き出すが、さっきの炎ほどの威力は無いし全然的外れな場所に着弾して燃えている。
こちらは動きながらも弓で攻撃していく。一撃一撃は大したダメージではなくても確実にダメージを与えていく。
どれほど長い時間が過ぎたか、矢も尽きようかという時にそいつは膝を突き、断末魔も無く崩れた。
「ああ…信じられないよ。本当にやったんだ!」
また動きだすんじゃないかと警戒してしばらく弓を構えていたが、帰らぬ主人を待っていた四千年の番人は二度と動く事は無いようだ。
「する事はあと一つだけ。これが実際に動く、真のエセリウムの鋳造器具だと証明しなくちゃならない。」
えーと、つまり鋳造器具を使って何かを作るって事かしら?
「もちろん!さあ、これだけの事をしてくれたんだから、あんたがやるべきだよ!」
貴女を差し置いて?気が引けるわね。
「いいから、いいから!あたしは横で見てるだけで充分さ!」
そう言うと彼女は、部屋の奥のインゴットの積まれたテーブルの上を確認しにいく。
「この部屋の材料があれば、必要なものは……ああもう!肝心のエセリウムがないよ!いや、待って!…うん、あるよ。集めた破片は純粋なエセリウムだよ。多くはないけど、使えるね。」
そうね、この量じゃ作れるものは一つだけになるだろうけど。
「有効に使って。鋳造器具を使える唯一の機会かも知れない。」
責任重大ね。
「美しい輝き…非の打ちどころがない。」
出来上がったものを見てカトリアは言った。貴女が満足できるものが出来上がって安心したわ。
「もう、あたし達が見つけたものを否定できる奴なんていない。この瞬間を長い間待っていた。本当に…長い間。」
カトリア。これは貴女の物よ、受け取って。
「いや、あたしの目的はもう果たしたよ。…あんたはそれを持ち帰って。そして誰かに聞かれたら、あたし達の発見を伝えてよ。」
この発見の賞賛を受ける権利は貴女にあるわ。研究を盗んだ見習いでも、私でもなく。
「ようやく…眠りにつける。名残惜しいけどここでお別れ…楽しかったよ、じゃあね。」
カトリアは一礼をすると消えていった…。
最後までせっかちなんだから…お礼ぐらい…言わせなさいよ。
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