2018年1月28日日曜日

似非プレイ記 謎の修道女

※ 大体フィクションです。




「オクティーブ・サンの借金をチャラにしろってのか?」
 鉄の鎧に身を包んだ老人は、やや声を荒げながらそう問い返した。
 彼の名は鉄拳のイルンスカー、ここソリチュードで従士をしているブライリングに私兵として雇われている。
 従士の私兵といっても仕事という仕事はせずにぶらぶらしているだけの男だ。

「はい。哀れな老兵から賭け事でお金を巻き上げるなどと無慈悲な事はなさらないでください。」
 修道服に身を包んだ女性は、両手を胸の前で組んだまま答える。
 フードに隠れて顔はよく見えないが長身ではあるものの華奢と言ってもいい身体つきの女性が物怖じする様子もなくイルンスカーに対峙している。

「無慈悲だと?借金は借金だ!借りたものは返さなきゃな!」
 イルンスカーは威圧するかのように怒鳴り声をあげる。
 しかし、それでも女性は一切憶することなくイルンスカーへ言葉を返す。
「賭け事の借金でしょう?あなたのお金を借りたわけではないのでは?」
「勝負事だ!あいつは勝負に負けたんだ。これが剣の勝負じゃなかったことに感謝するんだな!」

「ですがイカサマでは勝負と呼べるかどうか」
  女性の発したその一言でイルンスカーの表情は一変した。
  それまでは相手が女性ということもあってか声を荒げながらもどこかしら斜に構えているような部分があったが、今のイルンスカーからはそのような部分は消え失せていた。
「イカサマだと…?この俺がイカサマでオクティーブの爺さんから金を巻き上げようとしてるって言いたいのか?」
 「ああ、やっと言葉が通じたようですね。」
 表情の変化に気付いているのかいないのか、それまでと変わらずむしろ嘲るような口調でイルンスカーの神経を逆なでする。
「そこまで言うからには証拠があるんだろうな」
「あなたが手袋に”なにか”を仕込むのが得意なのは聞き及んでいましたし、何をするか分かっていれば昨夜のウィンキング・スキーヴァーでそれを見抜くのは難しくは…」

「そこまでだ、もう口をつぐみな!」
 イルンスカーは修道服の女性の言葉が終わらないうちにそう叫ぶと拳を振り上げ殴り掛かった。


 そこから数秒のうちに起こったことを彼は全く理解できなかっただろう。
 まさか目の前にいる細腰の女性が自分の巨躯を真っ逆さまに投げ飛ばしたなどと言われたところで信じられるものではない。
 だが現実にそれは起こり、彼が次に目を覚ました時に最初に感じたのは頬にあたる床の冷たさだったし、目を覚ました彼に気付き声をかけてきたのは修道服の女性だった。
 そしてまだはっきりとしない意識の中でオクティーブの借金を帳消しにする約束をしていた。

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